『こんぴらさん』の麓に隠れ家カフェをつくった理由

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「飲食店をはじめるなんて、イメージになかったから、びっくりした」

と、わたしのことをヨガのインストラクターとしてよく知る仲間たちはそう言う。

 

岡山からはるばる海をこえてきてくれたヨガ仲間のみんな。大好き。

 

一般的に「飲食店をはじめる」と言えば、乗り越えなければならない課題がいくつもあるように思うからかもしれない。

料理修行の経験を一定期間積んだプロの料理人であるか、将来自分でお店をもつことが夢だった人か、経営のノウハウをちゃんと勉強している人か、とか。

いくつか思い浮かぶと思う。

 

上で挙げた例から言えば、わたしの場合は、

そのどれでもない。

 

だから友人たちも驚いたのだと思う。

飲食店の仕込みの大変さすら知らないまま、お店をはじめてしまったくらいだ。

 

「うん、わたしも飲食店はじめることになってびっくりしてるよ」

と正直に答える。

 

飲食店での経験のないわたしが、なぜ飲食の提供に踏み切ったのか。

今日はそこに至るまでのことを書こうと思う。

 

 

その土地で暮らしながら必要なものを考える

 

岡山に住んでいたわたしたちが、香川の琴平に関係ができた経緯はこの記事にまとめて書いた。

 

▽ 2018年5月、当時書いていた記事はこちら

“ひとり旅”に特化したゲストハウスへ。自分の生き方を見つめ、世界を楽しくするきっかけづくり

 

当時「ゲストハウスがしたい」という想いでなんとか土地は手に入れたものの、

土地から離れた場所に暮らしていては、なかなか土地の有効活用の構想がイメージできなかった。

 

その場所で必要とされていることと、自分たちができることが結びつきにくかったからだ。

「頭だけで考えることと、実際にできることやその場所で求められていることは違う」

となんとなくわかっていたからだと思う。

 

「土地の近くにいこう」

 

2018年10月、わたしたち夫婦は岡山から香川の琴平へ拠点を移すことにした。

 

カレーを中心に提供する隠れ家カフェをOPENする2ヶ月前のこと。

当時、琴平に暮らしはじめるまでは、飲食店の構想はまったくなかった。

 

「観光地ではなく、山に暮らしているのだ」という意識の変化

 

琴平に暮らしはじめて1ヶ月が経った。

暮らしてみて気づいたのは、

「賑やかな『こんぴらさん』の参道のすぐ近くにありながらも、一本横にそれるだけですごく静かだ」ということ。

 

 

鳥の声がよく聴こえたり、太陽の光も気持ちがいい。

このあたりは、お年寄りの一人暮らしが多かったり、子供はもう結婚して家にいなかったりする家庭が多いが、

そのぶんご近所さんはお互いに仲がいい。朝から元気に会話をしている声が聞こえる。

 

山の木々たちは風で揺れて、太陽が沈むときのオレンジ色の光も、暮らしのなかに感じることができる。

空気は澄んで、星が綺麗だ。

 

 

賑やかな参道を歩いていたときには気づかなかった、山の麓の暮らし。

 

「観光地めぐりだけでは気づけなかった、

山の一部としての『こんぴらさん』の良さも隠れているのではないか」と、

気づいてしまったような気にさえなった。

 

「”観光地”のこんぴらさんに暮らしている」という認識から、

「こんぴらさんの鎮座する、”山” に暮らしているんだ」という認識に変化していた。

 

そう思えたとき、

「山小屋で暮らしながら働いたことがこの場所で活かされるのでは」と閃いた。

 

山小屋ではなんでもごちそう。なんでもありがたい。

 

2018年8月、富山の北アルプスにある山小屋で3週間働かせてもらったことがある。

 

高い山登りの経験がまったくないわたしが、初めて飛びんこんだ山小屋での暮らし。

そこでは「当たり前のことが特別なこと」だった。

 

食材は、ヘリコプターで1ヶ月分まとめて運ばれる。

 

 

登山のハイシーズンでは、200名を超える人数のご飯を用意しなければならなかった。

それが1ヶ月なのだから、途方もない量が運ばれ、管理されている。

 

夕飯のメインは、ハンバーグやとんかつなど、山小屋だからこそ食べられる献立になっていた。

 

「疲れた身体にスタミナをつけてもらうように」

「高い山のうえでもわくわくするようなメニューを」

そんなオーナーの気持ちが込められているのかなと思う。

 

加えて、炊きたてのごはんとあったかいお味噌汁が食べられた。

自分の足で、4〜5時間かけて登ったあとの山のご飯は格別だ。

 

そのときに気づいた。

「身体が喜ぶごはんは、食べる環境が大事なのではないか」と。

 

 

食料の確保が難しい場所だということもあり、ハンバーグやとんかつは冷凍食品だ。

一般的に考えれば、冷凍食品は、健康にいいとか、本当に美味しいものというイメージからは遠い存在なのかもしれない。

 

しかし、山に登った達成感や、

食料の貴重な環境にありながらも、あったかい山小屋で、みんなで囲むごはんは間違いなく美味しい。

わたしも日々そう感じていた。

 

それに気づいたとき、

「その場所に求められる食事の環境をつくるべきではないか」

と思うようになった。

 

「参拝のあとに訪れたくなる空間で。身体と心が喜ぶごはんを。」

 

古くから「一生に一度はこんぴらさん」と言われ、多くの参拝客が訪れる『こんぴらさん』。

その昔、航海の無事や豊作を願って、神格化されたこの山には、

今でも全国各地から魅了される人たちの参拝があとをたたない。

 

 

『賑やかな参道のある785段の長い階段を

自分の足で歩いて登り、祈りを届ける。

 

参拝で心を清めたあとには、

ほっと一息つける静かな空間で、身体と心が喜ぶようなごはんを食べてくつろぐ。』

 

わたしなら、そんな過ごし方がしたい。

 

「そんな空間を求めている人はきっといるはず」と思えた。

 

「その場所に求められる食事の環境をつくるべきではないか」

その想いから生まれたこだわりはこんな感じ。

 

・できるだけ自分たちでリノベーションすることで、人の気配が残る空間にすること。

 

 

・『その土地で採れる旬の野菜には、そのとき必要な栄養が蓄えられてる』という考えのもと、

その土地でとれた野菜とお米をつかうこと。

 

まんのう町に暮らす祖父がつくってくれたお米と野菜をつかう

 

・スパイスを使って、消化にいいごはんを作ること。五感で楽しめることも大事。

 

試行錯誤を重ねた、野菜の旨味を引き出すスパイスカレーと満月まんじゅう

 

・自分の足で歩いて山を登り、季節を感じて、お腹をすかせて来てもらうこと。

 

 

そんな空間が『栞や』で提供できたらいいなと思っている。

 

プロの料理人としての経験はないけれど、

そんな想いで、わたしのこだわりだけはたくさん込めた。

 

飲食店をやりたいという思いが先ではなく、

「この場所で暮らすなかで感じた需要を、

わたしのこだわりをつめた空間で応えられたらいいなぁ」と思ったこと。

 

それが見つかったことがきっかけで、

経験のないわたしでも飲食店をはじめることに踏み切れた。

 

 

長い参道はあまりに有名だけど、少し外れただけで

古くからの歴史や自然を感じられる場所があること。

その土地で暮らしている人たちがいるということ。

 

『ただご飯をたべる』

 

その行為の周りに付随する、いくつも重なる時間の流れ。

ずっとずっとこの土地で受け継がれている伝統や自然や暮らし。

 

『栞や』を訪れることで感じられる、土地や暮らしの魅力を届けられたらなと思っている。

 

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さなえ

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