ひとり旅 を彩る「寄り道」のできる場所でありたい
– 旅の目的地ではなく、中継地点でありたい。
これは『栞や』の根幹にある想いのひとつ。
目的地を目指すなかで、本来のルートから外れる「寄り道」は、効率だけを考えれば一見無駄と思えるかもしれない。
だけど、寄り道をしたからこそ出会えた思いがけない「何か」によって、旅は彩られ、味わいが増してゆく。
その連続によって、目的地の場所さえ変わることがあってもいいと思っている。
「旅の寄り道」としてふらりと訪れてもらえる場所であるために、『栞や』にできることは何か。
それを模索しながら、カフェ営業をスタートして、初めて迎えた年末年始の話について書こうと思う。
参拝のあとに訪れたくなるような、ほっと一息つける場所を提供したい
例年、初詣シーズンは『金刀比羅宮』(通称:『こんぴらさん』)を目指して、全国から多くの参拝客が琴平を訪れる。
メインの表参道は、いつも以上に賑わい、活気に満ちている。
メインの表参道はあまりに有名だけど、参道から一本横道に入るだけで、
静かで落ち着いた空気が流れていることについては、実はまだあまり知られていない。
参道のすぐ側でありながらも、落ち着いた時間が静かに流れる。
澄んだ山の空気を味わえ、『こんぴらさん』の麓の暮らしが感じられる道。
そんな 知る人ぞ知る、『こんぴらさん』参拝への秘密の抜け道に、
隠れ家カフェ『栞や』はある。
参拝を終えたあとに、ほっと一息つける休憩場所を、
参道の喧騒から離れたこの場所を活かして、提供したい。
そう思い、年末年始は通常の営業日(土・日・祝日のみ営業)を変更して、
12月29日〜1月3日まで休まずカフェをOPENすることにした。
すると、わたしたちにとっても、思いがけない出会いの数々が訪れることになった。
旅の休憩地点では、出会いが交差する
高知から参拝に来ていた、ある老夫婦と過ごした時間
「参道は ものすごい人だったよ。」
『栞や』を偶然見つけて立ち寄ってくれた、優しそうな老夫婦が、そう教えてくれた。
「毎年、高知から年に一度、ふたりで『こんぴらさん』にお参りに来ていて。
いつも大門までは人混みを避けてこの抜け道を通っているけど、去年はこのお店なかったよね?」
初詣シーズンの参拝客の多さを知る常連さん。
人混みを避けるためにこの抜け道を利用している人がいることを、会話を通して知った。
そしてお正月限定メニューのぜんざい『満月善哉(まんげつよきかな)』を食べて
「あ〜、やっと落ち着いたわ。」
と、しばらく店内でおしゃべりをしながら くつろいでくれた。
帰り際、
「また来年、お会いしましょう!お元気で!」
と、手を振って別れた。
例年参拝に訪れる人にとっても、『栞や』が新しい発見の場となり、旅の中継地点として休んでもらえたことを実感できた経験だった。
「お手洗いお貸しします。」が、寄り道のきっかけに
『こんぴらさん』までは長い参道と階段が続く。そして冬の山は、冷える。
そこできっと困るのが、お手洗い問題。
参拝客がこの時期に集中することを考えると、仮設トイレはあっても、数が足りない可能性がある。
『こんぴらさん』を目指す途中に位置する『栞や』なら、もしかしたら、このタイミングで必要とする人に使ってもらえるかもしれない。
そう考えて、『栞や』のお手洗いを気軽に使ってもらえるように、店の外に貼紙をした。
すると、三が日は 毎日声がかかり、数組の利用があった。
もちろん、トイレの利用だけでもOK。
なかにはそのあと、庭のストーブを囲んで『満月まんじゅう』を食べてくれた方もいた。
関東から来られた方は、店内の雰囲気を「鎌倉の古民家カフェみたい!」と言って、楽しんでくれた。
広島から来た、小さな子ども連れのご家族は、
「実は、車で道に迷って、山奥に行ってしまって、なかなか参道へ来れなかったんです。
トイレもずっと行けてなくて。ようやく参道への道も見つけたんで、ホッとしました。」
と言ってくれた。
また、新潟からひとり旅で来ていた60代の女性の方にも すごく喜ばれ、
「四国一周の旅を続けるんだ」と話してくれた。
わたしたちの家(お店)にあるトイレを気軽に使ってもらっただけ。
それだけで、必要とする人に喜んでもらえて、交流するきっかけが生まれた。
まさに、わたしが目指していた『旅の中継地点としての、山小屋のような在り方』と重なった。
「この場所だからできること」を模索することは、自分の経験や感性が反映され、面白い。
寄り道を楽しむことで旅を彩る場所でありたい
いつもの道を行くことの良さも、冒険してみることの良さも、
寄り道しながら 味わえるのが 旅であり、人生であるように思う。
自分が「いいなぁ」と思う体験や感覚に出会って、次に進む方向を選ぶ。
その繰り返しで手探りでつくる『栞や』は、目的地はあってないようなものかもしれない。
その道のりを肯定し、楽しむ場所でありたいと思う。
『こんぴらさん』の参道から一本外れたところにある『栞や』。
旅の寄り道をしに、ふらりと立ち寄ってもらえたら嬉しい。